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Haiyaa

友達と曲を作った。Haiyaaという歌。 小さい頃からCMに合わせて歌ったりリズムを取ったりするのが好きだった。 でも自分の声に音色をつけて自由に発声することがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。


 

 旅をしていると「どうやって自分を楽しませるか」がなんとなく上手くなってくる。現代社会では人々のストレスを晴らすために嗜好品や娯楽体験がそこら中に散らばっている。でもそれらを享受するためにはお金を払う必要があるということが、自分が生まれ育ってきた社会の仕組みだった。特に日本は面積が小さい割に人口が多いため、人々が集まる場所(都会)が至る所に散らばっている。それゆえに人工物や人が創造したサービスを消費するタイプの娯楽が主流になってくる。車を走らせて少し田舎に行くとグランピング施設やジップラインなどの自然を扱った商売も見受けられる。時代の流れ的にこれは普通の現象なのだろう。別に日本社会に限ったことではなく、都会に行けば資本主義国家ならどこの国もほとんど変わらない気がする。(2019年にキューバを訪れたときは、ハバナの中心地ではボールを蹴ってるかボーッとつったている人が大半だった。)人々は消費をすることで自分を楽しませている。

Havana, Cuba 2019 by Hiroya Hashimoto

 2024年現在、今旅をしているオーストラリアは少し系統が違う。もちろん都会に行けばそこら中に目を惹く娯楽が散らばっている。しかし車を1時間も走らせると辺りには何もない。その州の気候によって広がる草木は違えど、人工物は見当たらない。ただただ自然が広がっている。兵庫県神戸市の近郊で生まれ育った身としてこの体験は衝撃だった。日本にいた時からキャンプや山登りが好きだったが、こんなにも人間存在を感じさせる物質が存在しない場所は初めてだった。


Flinders Range, South Australia by Hiroya Hashimoto April 2024

 己vs自然という対峙をしたときに、やることは起きて飯を食べて排泄をして寝る。それ以外の時間は結局暇つぶしであり娯楽である。何もないところからどうやってこの時間を潰すかを捻り出さないといけない。何もしない、というのももちろん選択肢の一つだ。


幸いなことに僕は写真を撮ることが好きだ。さらに使用しているフィルムカメラは充電が不要なので、暇な時間の大半はすぐに過ぎ去る。次にやることといえば体ひとつでできるアクティビティになってくる。散歩、ランニング、ストレッチ、ヨガ、瞑想、昼寝、考え事、日記。海に近ければサーフィンもいいだろう。どれもとても楽しい。そして最近発見した新しい娯楽が歌を歌うことだ。


空に向かって叫ぶ。小さい頃に見たCMソングを無意識に口ずさむ。失恋した時にひたすら聴いてた懐メロを全力で歌う。あぁなんて気持ちがいいんだ。

 

 2024年12月、南オーストラリア州で出会った旅人Maxとひょんなことから少しだけ一緒に行動することになった。お互い西へ行きたいということだけ知っていた。それ以外は適当に探検する。その日暮らしのさすらいが2人の旅のスタイルにマッチしていた。

campsite 14/12/2024 by Max

 ある日滞在したキャンプサイトの共有エリアでMaxが4本しか弦がないボロボロのウェスタンギターを見つけた。僕が晩飯を作っているとMaxがおもむろにいくつかのコードを弾き始めた。4本しか弦がないので彼が心地いいパターンを発見するまでそんなに時間はかからなかった。シンプルなコード進行は料理中の鼻歌にピッタリだった。パワーコードがひたすらリピートされる。ジャンジャジャジャジャ〜ン。体が揺れる。心地がいい。


気づいたらフリースタイルでJammingしていた。2人とも歌詞とかリズムは無視してただただ気持ちよくなるためにギターを弾き歌を歌っていた。日本語の単語を適当に並べてそれっぽく歌う。最近見た景色とか、感じてること。出会った人たち。口を突いて出てきた単語に音色をつける。


Kitchen area at Boat Harbor Campsite, 14/12/2024

一言も理解できないMaxにとってどうやら日本語は美しかったらしい。適当に歌を歌う楽しさを初めて知った気がする。とてもパーソナルでランダムな体験。世界中で聞かれているあの名曲達もこうやって生まれたのだろうか。


興奮冷めやらぬまま彼はイントロをアレンジして、僕はリリックをメモ帳に書き留めた。そしてHaiyaaという曲に仕上げた。意味とかクオリティなんてどうでもいい、ただ2人とも思い出を作りたかったのだろう。


日記から。






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